Rouge3:かわったものにきょうみをもちます お星さまになったじいや、お空の上は楽しいですか?。 銀髪さんは、日番谷くんとおっしゃるそうです。 とっても恐いのですけど、ご飯をくださるからきっといい人です。 じいや、心配しないで。桃は大丈夫、きっと今夜も大丈夫。 最近、冬獅郎は調子が悪かった。体調も悪いが、女運が呆れるほど悪い。大体、前の彼女と別れてからもう10日以上たつのに、未だに新しいのをゲットできてないなんてどういうことなのだろうか。母親が亡くなった2年前から始めた夜遊びで、こんなに長く女気がなかったなんて冬獅郎にしてみれば初めてのことだ。 前代未聞、風前の灯。 何が風前の灯かと言えば、冬獅郎のアレがナニで困ったもんだねってことだろう。もうOLでなくてもいい、そのヘンで遊んでいるケバ目な女子大生で手を打つ。とりあえずやらせろ、ひとまずやらせろ。 「・・・・・・・・・。」 がっついてるのがが顔に出てるのだろうか・・・・・・今夜もいいところまで行ったのに、お持ち帰りは出来なかった。ショットバーでひとりで飲んでいたところに声をかけて来た、胸がボイ〜ンでお尻がムッチリな女子大生は冬獅郎の好みではなかったけれど、とにかく今はイッパツやらせてくれたら何でもいい状態なので、冬獅郎は機嫌良くおごってやった。おごると言っても、冬獅郎にはいくら使っても請求書が来ない魔法の金色カードがある。好きなだけ呑めよと言ったら、女は本当に好きなだけ呑んだ。そして、気分が悪くなったと言って、タクシーで帰って行った・・・・・・。 「・・・・・・・・・。」 今度から、ほどほどに呑めよと言うことにしよう。ヤレルだけの余力は残しとけ、そう言おう。これぞ、人生の教訓だろう。冬獅郎はひとつ賢くなったぞ、ヨシ。 しかし結局、せっかく得た人生の教訓を発揮することなく、午前2時のショットバーの閉店時間まで粘ってみたが、呑み過ぎなボイ〜ン×ムッチリ以降は冬獅郎に声をかけてくる女はいなかった。こちらから声をかけたいような足のきれいなお姉さんも見当たらず、新聞配達のバイクが走り回るよりは早い時間に冬獅郎はマンションに戻り、無駄にダブルサイズなベッドに潜り込んだ。 (・・・・・・あいつの気分が、ちょびっとわかったかも。) あいつというのは雛森桃とかいう、吸血鬼なゴスロリ少女のことだ。桃もまた、血を求めて夜の街を徘徊しているらしい。女を求めてうろついている冬獅郎と似てなくもない。桃と冬獅郎の違いは、これまでの戦績だろう。桃が全敗なのに対して冬獅郎は常勝将軍、な筈だったのだけれど。 すれ違う男が全員ふりむいたという母の美貌を受け継いで、冬獅郎はかなり整った顔立ちをしている。それに加えて、見事な銀髪と翡翠の双眸だ。芸能プロダクションの名刺を持ったおっさんに追いかけられたことも一度や二度ではないし、ホストクラブのマネージャーに、うちで働いてくれと土下座されたこともある。まあ、要するにカッコいい訳だ。今風に言えば、イケメンということだろう。そんなイケメンな冬獅郎だから、今まで女に不自由したことがない。甘いムードの演出さえ冬獅郎には不要で、近づいて来た女に片っ端からヤラせろと言えば、それだけで全戦全勝だった。つまり、冬獅郎は企業努力なんてしたことがないのだ、企業じゃないけど。というか、冬獅郎の辞書に “努力” と “女日照り” の2単語は存在していなかったのだ、今まで。 「・・・・・・・・・。」 羽毛100%の布団の下で、ナニがいい加減にしろよといきり立っている。血管浮いてそう、確かめたくないけど。さすがに10日以上も抜いてないと、もう限界だろうか。自分で抜くしかないのか、情けない。 ハアッと、大きな溜息をついてから冬獅郎は羽毛布団を頭の上まで引き上げた。寝よう、寝てしまおう。明日になれば、きっとOLが釣れるだろう。足がすらりときれいな社長秘書だ。ストッキングを脱がすのが好きです、変態ぽいので秘密ですが。つーか、何を言ってるんでしょうか。だからつまりナニのアレは明日のホニャララのために温存しとこうと言うか、ここまで溜めたらギネスに挑戦と言うか、ここで負けたら常勝将軍の名を返上しなければならないと言うか、要するにただ単に意地になってるだけと言うか。 (・・・・・・・・・・・・寝よう。) 冬獅郎は、眉間の皺はそのままにぎゅっと目を閉じた。早起きな新聞配達のバイクの音が聞こえる・・・・・・ブロロロロ・・・ブロロロロロロ・・・・・・・・・(グーグー)・・・・・・・・・ブロロロ・・・グーグー? 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 うとうとしていた冬獅郎は、グルキュルル〜という、もうすでに聞き慣れてしまったあの音に目を瞑ったままこめかみをヒクヒクと引きつらせた。見たくない、出来ることなら。確かにこの前、うっかり合鍵を渡してしまったけど会いたい訳ではない。このまま夢の国へパタパタと立ちたい。せめで夢で美人なお姉さんとあ〜んなことや、こ〜んなことを、良いではないか良いではないかといたしたいです、お願いします。 そんな冬獅郎の無邪気な願いを打ち砕く腹の虫が、冬獅郎の耳元で楽しげに大合唱をする。 グーグーグー、グーグーキュルルルル♪ 見たくない、出来ることなら見たくない。だけど、寝込みを襲われるなんて真っ平ご免だったりする。ヤツならやる、やりかねない。 冬獅郎は、嫌がる瞼に力を込めてぐぐっと押し上げた。途端に目に飛び込んで来るのは、指をくわえて冬獅郎を覗き込んでいるロリ顔だ。よだれは拭いときなさい、一応は女の子なんだから。 「・・・・・・・・・腹減ったのか?」 「はい!」 そろそろ夜が明ける時間だが、まだ辺りは暗い。そんな闇に響く、よい子のお返事・・・・・・。 「お前、また狩りを失敗したのか?」 「あー、うー。」 「あー、うー、じゃねえ!誤魔化すな。」 「えっとえっと、これでも頑張ったんですよ?でも、時間が遅くなればなるほど、美味しそうな方は減ってしまって。」 「そりゃそうだろ、処女や童貞がそんな遅くまでうろつくかよ。」 「ふえ、そうなんですか!?」 「つーか、お前。もう好き嫌いはしませんとか言わなかったか?」 「ですから、多少はお味が落ちても仕方ないなと、あまり美味しそうではない方にも何人か声をかけてみたのですけど。」 「みたのですけど?」 「皆さん、何故か笑いながら逃げるんです。」 「そりゃお前、ゴスロリだからだろ。」 「はい?」 今日も桃の衣装は元気にごてごてだった。薄闇の中で見ているから色はよくわからないが、布はなめらかなビロードのようで、淡い月明かりを弾いている。少しは暖かそうだ、前のよりは。それに、ふりふりの代わりにファーがついてるし。お約束のヘッドドレスにも、何やらふわふわがたくさん乗っている。ゴスロリ、冬仕様。どうでもいいですが。 冬獅郎は、ダルそうに上半身を起こした。ベッドの上で片膝を立て、その上に肘を乗せる。 「お前、普通の恰好したら、男なら釣れるぞ。」 「普通の恰好、ですか?」 「おう。顔はそれなりに・・・・・・ま、可愛いしよ。お、俺の趣味じゃねえけどなっ!」 「はあ・・・・・・。」 「ちょっと短いスカートでもはいて、トロそうな男の前でにっこり笑ってみろ。それこそ童貞くんが釣れるぞ。童貞なら、男でも美味いんだろ?」 「はい!清らかな方の血はとろ〜り濃厚なのに、後味さっぱりと申しますか。」 「いや、グルメ評論はいいから。」 「はい?」 ふぅっと息を吐いて、仕方ねえなと冬獅郎は首に張ったバンソウコウをぺりっと剥がした。冬獅郎は一応まだギリギリ10代。新陳代謝はそんなに悪くない筈なのに、桃に噛まれたふたつの牙のあとはなかなか消えない。 「とにかくだな、明日の夜までもつ分だけやる。明日の夜にはマイクロミニはいて、童貞をざっぱざっぱと釣り上げろよ。」 「わかりました。」 「痛くすんなよ。」 「お任せです、研究して来ました!」 宣誓するようにぴしっと片手をあげた桃に、頼むぜと冬獅郎はげんなりと肩を落とした。これは献血だ、ボランティアだと割り切ってはいるが、この献血は痛いだけでエイズ検査もしてくれなきゃジュースもくれない。つまりは、丸損なのだ。 桃の目が、金色に怪しく煌く。それまでの幼い顔はふっと一瞬にして払拭され、その代わりに現れるのは妖艶な女の顔。いただきますという、間抜けな台詞さえ艶かしく冬獅郎の体を痺れさせる。牙が近づいて来る、あの燃えるような痛みを覚悟して冬獅郎は思わず目を瞑った。 「あ・・・・・・れ?」 刺さる時には痛かった、注射針が皮膚に刺さる程度のチクンとした痛みが走った。だけど、それだけだった。桃は、ごくごくと喉を鳴らして冬獅郎の血を貪っている。体から力の抜けるような感じはいつも通りだ、だけど痛くない、それどころか・・・・・・。 「ちょ・・・・・・雛森、待て!」 「ん?(じゅるじゅるごくごく)」 何故だろう、体が熱い。体と言うか、明日は使ってやるからとさっき宥めて鎮めたナニがアレで、これでもかとソレでして。 「待てって!」 冬獅郎は、自分の首に噛みついている桃の両肩を掴んでべりっと剥がした。すると、瞬く間に今まで確かに金色だった桃の目が元に戻る。 「あ〜ん、もう一口!」 「明日の夜までもつ分だけつったろ!」 「だってぇ。」 「俺の血は、まずいんだろがっ!!」 「いえ、それが慣れて来るとなかなかオツなお味でして。」 「アホか!!!」 ふざけんなとばかりに桃の手を軽く払ったら、血を飲んでいる時にはえらい力なのに、普段はそうではないのか簡単に吹っ飛ぶ。ばふっと、冬獅郎がさっきまで寝ていた枕に顔面から突っ込んで、桃は痛い〜なんてジタバタと暴れている。 「ベッドに突っ込んで、痛い訳あるか!おら、用が済んだんならさっさと帰りやがれ。」 「でも、まだ始発は動いてませんし。」 「お前、電車通勤なのか・・・・・・?」 電車に乗る吸血鬼・・・・・・頭痛い。ちなみに、ナニもまだ元気です。もうこれは、自分で抜くしかないらしい。早く桃を追い出して、シコシコとやるしかないらしいです。 ハァァァァと、冬獅郎がもう何度目かさえわからない溜息をついた時、桃が「これ、何ですか」と枕の下から何かを引っ張り出した。若い男が枕の下に隠すものと言えば、もちろんひとつしかない。 「うすうす?」 「んなモン、女は見なくていいんだよ。」 ぱしっと桃の手から小箱を奪い返したら、まだ封を切っていない新品だ。元カノと最後に会った夜に、1箱使い切ってやるつもりで持って行ったやつだ。まさか別れ話だなんて思わなかったから、ものすごく張り切って行ったのに、そのまま持って帰って来る羽目になった。その後も、ひとつも消費していない。今夜も女子大生のお持ち帰りは失敗したのに、こんな喰う気になれないゴスロリ小娘と夜明けのランデブーとはこれ如何に。 「あのぉ、うすうすって何ですか?」 「はあ?お前、知らねえのか?」 「知りません。」 「・・・・・・・・・じいやは、お前に性教育しなかったのか?」 「せ・・・何ですか?」 「・・・・・・・・・。」 これは、避妊具というものを知らないだけだろうか?それとも、男と女の諸事情そのものを知らないのだろうか・・・・・・確か、桃は夜の街をひとりで徘徊している筈だ。ゴスロリだから普通の男は引くだろうが、女なら何でもいい奴だって掃いて捨てるほどいる。しかも、桃は血を吸う目的で自分から男に声をかけるのだ。路地裏に連れ込まれて、押さえつけられたらそれまでだろう。血を吸っている時の桃は怪力のようだが、普段はそうでもないらしいし。 「今まで、そういう目にあったことはねえのかよ?」 「そういう目って?」 「だから、ヤラれたことはねえのか?」 「ヤラれる?」 「だからっ、お前はバージンかって訊いてんだよ!」 「バージンて何ですか?マリネとかにかかってる・・・・・・。」 「バージンオイルか?そりゃ、オリーブ油・・・・・・じゃなくてっ!!」 こいつ、マジで天然だと思うと、冬獅郎は溜息をつくしかない。よくこんなんで、ひとりで生きて行けてるものだ。 (いや、ひとりで生きて行けてねえよな。こいつが生きてるの、ほとんど俺のおかげだし。) 男は狼だと教えてやるべきかと思ったが、そこまで世話してやる義務は冬獅郎にはない。それよりも、こんな脱力ものの話をしてるってのに全く萎える気のないらしいアレがナニだ。一瞬だけ心に浮かんだ、突っ込めるならもうこいつでもいいかなんてとんでもない考えを、ぷるぷると頭を振って追い出した。 「とにかく帰れよ、お前。さっきやった血で、明日の夜まではもつんだろ?明日はミニはけよ、ミニ。んで、俺のとこにはもう来なくていいようにしてくれ。貧血でふらふらすんだよ、俺をミイラにするつもりかよ。」 「ミイラにはならないですよ?ずっとひとりの方から血を頂く吸血鬼もいますから。」 「俺は、ずっとやるつもりはねえ。」 「・・・・・・はい、わかっています。」 「俺んとこ来るのは、腹減ってどうしようもない時だけにしてくれ。」 「はい、努力します。」 「じゃ、帰れ。」 「でも、始発が・・・・・・。」 「いつまでもここにいると、マジで突っ込むぞ。」 「はい?突っ込むって、何ですか。何をどこに突っこ・・・・・・。」 「いいから、帰れっ!!!」 怒鳴りつけてやると、桃は「だって、外は寒いです〜」と涙目になる。だからもう、ナニが限界なんだって! 「んじゃ、突っ込む!文句ねえな?」 「だから、突っ込むって何・・・・・・ふぇ〜。」 元々、ふたりが居るのはベッドの上なのだ。都合のいいことこの上ない。冬獅郎は、桃の軽い体をベッドの上にちゃんと横たえると、その上に跨った。 「一応確認しとくが、吸血鬼とやったら自分も吸血鬼になるってことはねえよな?」 「だから、何をするんですかぁ〜。」 「コレの使い方を教えてやるんだよ。」 冬獅郎が桃の目の前でひらひらと振って見せたのは、先ほどの小箱だ。うすうすと書いてある、あれ。 「な、何が何やらわからないのですがっ!」 「だから、教えてやるつってんだろ。」 「でもでもでもでも。」 「うるせえ、黙れ。」 そう言うと冬獅郎は、桃の唇を塞いだ。柔らかな質感が、冬獅郎の口づけに応える。 (・・・・・・あ、あれ?) かなりやけっぱちで唇を奪ってみたものの、久しぶりのせいかどうにもこう、何といいますかつまり・・・・・・。 「んんんんん!」 何といいますか、つまり結構これがいい感じなんですが。少なくとも、すぐには離したくない程度には。 「ふ、ふぇ・・・苦しいです!どうして口をくっつけるんですか〜!?」 「お前、マジで何にも知らねえのか・・・・・・。」 冬獅郎は、処女好きではない。というか、処女は色々面倒なので是非とも遠慮したい。しかし、ここまで何も知らないと、これがなんと言うかその・・・・・・ちょっと、男心をくすぐったり? 仕方ない、こいつで我慢するかと冬獅郎は思った。桃は処女な上に人類ですらないけど、それでも今は桃しかいないんだから仕方ない。 「吸血鬼も初めては痛いんかな・・・・・・。」 「い、痛いんですか!?・・・・・・って、何が?」 「黙ってろ、すぐにわかる。」 「ふえ?」 冬獅郎の指が、無駄にごてごてなゴスロリドレスのボタンにかかる。襟元をぐるっと飾ってるファーが邪魔でなかなか外せない。 「・・・・・・・・・そういや、お前っていくつなんだ?」 冬獅郎は、年上専門なのだ。けれど、年下も受付なくはない。今までに、何人か高校生ともつき合った。美人OLの色香には敵わないが、女子高生もそれなりに悪くはない。しかし、冬獅郎の守備範囲は高校生までだ。中学生を相手にする気はない、淫行で捕まりたくないので。(注:高校生でも、18歳未満なら捕まります) 桃は16、7くらいに見えるが所詮は吸血鬼、人間と同じ物差しでは測れないかもしれない。もしかして、15歳未満かも。それならさすがにまずいと思って、冬獅郎は一応訊いてみた。 「歳ですか?」 「ああ、いくつだ?」 「歳でしたらちょうど・・・・・・。」 「ちょうどってまさか、ハタチなのか?」 それならば、冬獅郎より年上ということになる。とてもそんな年上には見えないが、そこは吸血鬼だからあり得るかも。 しかし、冬獅郎の予想を違う方向に裏切って、桃はにっこり笑顔で「ちょうど80歳になります」と答えた・・・・・・。 「・・・・・・・・・・・・は?」 「80です。6月のお誕生日で、めでたく80歳になりました。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 「あの、日番谷くん、どうかされましたか?」 この桃の問いかけは、冬獅郎の耳に届いていなかった。ただ、80という数字がぐるぐると頭の中を回る。 「日番谷くん、お〜い?」 ぱたっと、冬獅郎は桃の脇に顔面から突っ伏した。スプリングのよく効いた高級ベッドが、ばふんと冬獅郎を受け止める。 「・・・・・・・・・・・・危ねえ、もう少しで守備範囲を大幅に広げるとこだった。」 「はい?」 ちなみに、冬獅郎のナニはショックですっかり大人しくなっておりました、はい。 (2007年11月25日更新 / まりり) 2 / 4 戻る |