Rouge6:かまいすぎるのはあまりよくありません お星さまになったじいや、桃は病気になりました。 日番谷くんが怒って行ってしまったあの時、ズキンと心が痛くなりました。 食欲もなくなってしまうなんて、桃はどこか悪いのかもしれません。 じいや、桃の病気を治すお医者様はどこにいますか? ザーという音が変に耳に響く。冬獅郎はソファに背を預けながら、溜め息をついた。 一体全体、自分はどうしてしまったのだろう。せっかく夢のリストラが目の前にぶら下がっていたのに、みすみす見逃すなんてどうかしている。あまつさえお持ち帰りして、風呂場に突っ込んだってどうよ。 「どうしたんだよ、俺・・・」 けれどその問いに答えてくれる者はいない。虚しく響く己の声と、やはり響くシャワーの音。 終電はまだあった、何より冬獅郎は車だったのだ。そのまま桃を送ればいいだけなのに、ここまで引っ張ってきてしまった。ぐしゃぐしゃの顔をどうにかしろと、風呂場に追いやってしまった。 本当にどうしたんだ、いやもうマジで。 自己嫌悪に沈む冬獅郎など気にせず、桃は風呂に入っているのだろうか。いつの間にか泣き止んでいた桃は、これまたいつの間にか笑顔に戻っていた。あの能天気でのほほんな笑顔を冬獅郎に向けてくれた。 その時ホッとしてしまったなんて、本当にもう・・・・・・。 心の奥底に浮かんだのはとある一文字だ。『変』という字にソックリな・・・・・・・・・。 サーッと冬獅郎は青ざめた。な・・・何その字?なんていう字? いーやーぁぁぁぁ。 考えたことのあまりの恐ろしさに、冬獅郎はソファの上で自分を抱きしめる。本当ならやわらかーい胸とハリのあるお姉さんの脚を抱きしめているはずなのに、なぜに固い男の身体を抱きしめにゃならんのか。 そうだそうだ。冬獅郎が好きなのは柔らかいお姉さんだ。すらりと綺麗な脚をしたお姉さんなのだ。ストッキング着用希望、時々網タイ。ガーターとかつけてるとか最高です。ていうか、それを脱がせるのが好きなんです。 調子が戻ってきたのかうんうん頷く冬獅郎ははっと思い出した。すらりと伸びた足、真っ白できれいな曲線美。足首はきゅっと締まった理想の脚を。 そろりと風呂場の方に目を向ける。リビングにいる冬獅郎にはもちろん、脚の主は見えやしない。だが、理想の脚が今冬獅郎の家の風呂場にいるのだ。 先ほどまでは強い心も持って、「脚がなんだ!」とふんばっていたものの、今の弱った心ではどうにもならない弱い生き物なんです、人間って。 熱い湯気で真っ白な脚は桃色に染まり、滴り落ちる水滴。あ・・・・・・泡とか付いてたりします? 途端に一点に血が集中する。抜かない日数は日々更新。欲求不満で張り裂けそう、何ってナニだよ。ああ・・・突っ込みたい・・・。 「80!80!!80!!!」 これぞ冬獅郎を我に返らせる魔法の言葉。萎え萎え魔法と申しましょうか。 だが、過去2回、冬獅郎をまっとう(かどうかはわからないが)な道に戻させた魔法の言葉もなぜだか効かない。ドクドク脈打つナニに、ソファに顔を突っ伏した。 マズイ、これはマズイ。 以前突っ込むのと今突っ込むのではわけが違う。今突っ込めば間違いなく後戻りできなくなる、そんな予感がするのだ。 それが何かなんてさっきも言ったとおり考えたくないわけで。まっとうな道に戻りたいわけで。だからつまり、自分が桃にピーホニャララとか勘弁勘弁と言いたいわけで。 頭の中はぐるぐるぐるぐる渦潮巻いて、冬獅郎は不覚にもペタペタという足音に気付かなかった。 「日番谷くん?どうかしましたか?」 「っぅ!!!」 いきなりかけられた声に冬獅郎は思わず飛び上がる。口から心臓出るくらい大きく反応して。 対する桃は冬獅郎の反応に小首を傾げた。 「いきなり声をかけるな!」 「・・・あ・・・あ・・・ごめんなさい」 「・・・っと、いや別にそんな怒ったわけじゃ・・・」 思わず怒鳴りつけた冬獅郎に返ってきた桃の声は沈んだもので。きっとまた失態をやらかしたと思ったのだろう。何しろ前科があるので、そう思っても仕方がない。 けれど今回に関しては桃に非はないので、冬獅郎も慌てて否定しようと振り向いた。 そして固まる。コキーンと。 「・・・・・・脚・・・」 「脚?」 桃はいつものごてごて服も、買ってやったワンピースも着ていなかった。着ていたのは脱衣所に置いていた冬獅郎の白いシャツ。ちなみに使用済み、ここポイント。 小柄な桃では太股は隠れて膝まで届いてしまう。代わりに胸元が大きく開いていて、もちろん見えはしなかったけれど見える寸前だった。 でも、脚。 指摘部分は脚。 たとえ膝下しか見えてなくても脚。 「いや・・・なんでもない・・・」 落ち着け落ち着けと自分をなだめ、冬獅郎はそっぽを向いた。どれだけ綺麗で魅力的で真っ白でハリがあって弄りたくなってグリグリベロベロンで・・・いやいやだからそれだけ理想の脚であっても、冬獅郎は騙されない。相手はロリで吸血鬼で80歳。そんな女にピーホニャララとかあり得ないだろう、この自他共に認める常勝将軍の自分が。 「大丈夫なんですか?風邪とかじゃ・・・」 「風邪・・・そうだな、風邪だ風邪。これは風邪だ」 「そ、それは大変です。早く寝なければ!」 「・・・・・・寝る?」 寝る?イコール『あんあんあん』? 「やっぱ風邪引いてねぇ!」 「ええっ!ですが、お顔赤いですよ?」 「断じて風邪引いてねぇ!」 「ですが・・・」 「しつこい、俺は風邪じゃない」 ピシャリと言われて桃は黙りこくってしまった。きつく言いすぎたかと冬獅郎は先ほどのように少し焦る。だが、そんな空気を破ったのは桃の方だった。 思い出したかのように大きな声を出す。 「あっ!」 「・・・なんだよ・・・」 「忘れてました。日番谷くん、コレ、お外に干してもいいですか?」 そう言って目の前で開けたのは小さな逆三角。ピンクのレースで、布の面積が小さい逆三角(強調)。 瞬間、冬獅郎は大きく目を見開いた。 「ちょ、待て、おまえ、なんだそれ!」 「え?ショーツです」 (ってことは今コイツはスッポンポンかよ!!) そうですね。 大慌ての冬獅郎に対して桃はいたって冷静だ。可愛らしいショーツを広げたまま意味がわからないと冬獅郎を見つめている。 下半身に再び血が集まる感覚。せっかく忘れていたのに・・・!! 「お外に干させてもらいますね」 「待て待て待て!!!雛森、ちょ・・・待てって!!」 横を通り過ぎてベランダに向かおうとする桃の強く掴んだ冬獅郎は必死なんてものじゃない。 別に今更女物の下着を干してご近所の目が・・・なんて言うつもりはない。女を連れ込むところなんてご近所中が目撃していることだし、そもそもこの高級マンションの住人は某大企業の愛人だとかが住んでいたりするのだ。世帯ごとの干渉なんてない気楽な場所で。 だから止めたのはそうじゃなくて、そうじゃなくて、そうじゃなくてっ!! 主張する下半身がマズイんです。 ベランダに向かおうとする桃を再び目の前に立たせ、冬獅郎は声を荒げた。 「おまえ、女ならもっと恥じらいをもて!」 「・・・はぁ」 「『はぁ』じゃねぇ!わかってんのか!?」 「・・・ど・・・どうしてそんなに怒るんですか?・・・ふぇぇ・・・」 「泣くな!泣きたいのはこっちだ」 ごもっとも。 「とにかく穿け、すぐに穿け、穿いて来い!」 「でも冷たいですぅ〜」 「阿呆、早くしろ」 「じゃあじゃあ、日番谷くんの貸してください」 「無理だろ!」 端から見ればコントのような会話を繰り広げるも、二人は真剣だ。特に冬獅郎は桃を相手にしながらその実下半身と戦っているのだ。かなり辛く厳しい状況にある。 うりゅうと涙を溜める桃に騙されたりしない。負けるな俺、頑張れ俺、もうちょっとだ俺! ぐしゅぐしゅと目をこすりながらも、迫力負けした桃はコクンと頷いた。それに冬獅郎はホッとする。 だが、甘かった。 「〜〜〜っって!!ここで穿こうとするなぁ!!!」 あろうことか目の前で穿こうとする桃に、もう冬獅郎の脈打つナニは最高潮までいきり勃っている。何何何!?何この子!?これは何かの陰謀か!? それでも突っ込んだら終わりという気持ちが冬獅郎を辛うじて踏みとどまらせるのだ。もっっっのすごい拷問だけれどもっ! 「・・・わ・・・私、帰ります・・・」 「は・・・?ちょ・・・待て、ちょっ・・・雛森!!」 ただ、桃にとってもこの状況は辛くて。そもそも冬獅郎が何に怒っているのかがわからない。穿かなければ怒るし、穿こうとしても怒るし、一体どうすればいいのか。性教育を受けていない桃には、ただ口やかましく怒られているとしか取れないのだ。 逆三角を握り締めながら帰ろうとする桃に、冬獅郎は先ほど以上に必死になって止めていた。 「その格好で帰る気かよ!」 「・・・あ・・・すみません、このシャツはお返しします」 「だから脱ぐなって!」 「貰っていいんですか?じゃあいただきます。ありがとうございます。では・・・」 「いやいやいや!だから待てって」 「だって日番谷くん恐いですっ」 むしろこっちが恐いとどれだけ叫びたかったか。 けれど、それをすんでで飲み込んで、冬獅郎は立ち上がった。桃の横を通り抜けてすたすたと歩いていく。 「日番谷くん、どこに行くんですか?」 「風呂入ってくるんだよ!おまえはその間にドライヤーで下着乾かしておけ!」 「あ、あ、待ってください!」 冬獅郎の後をとてとてと走っておいかけるも、ドアを閉められ、鍵まで掛けられては普段の桃では開けられない。ドアをドンドンと叩きながら冬獅郎の名前を呼び続ける。 「日番谷くん日番谷くん、ドライヤーってどこにあるんですか?」 逆三角を握り締めた手で扉を叩きまくると、それが開き、ポイっとドライヤーが投げられた。桃は慌ててそれをダイビングキャッチ!その時シャツが捲れ上がったものの、幸いにも冬獅郎はここにはいない。 一応またノックしまくるも、一向に開きそうにないドアに桃は溜め息をついてリビングに戻っていった。 冬獅郎は服を着たまま風呂場でへたりこむ。 うるさいノックが止んだところをみると、桃は大人しくリビングに戻ったのだろう。 まさか帰ったんじゃないだろうな、と風呂場のドアを開けて耳を澄ませるとブウォーというドライヤー音が聞こえてきたので大丈夫のようだ。再び風呂場のドアを閉めて、特大の溜め息をついた。 「なんなんだよ、アイツは・・・」 呟いた声は風呂場で反響し、冬獅郎の耳へと返ってくる。 熱い下半身はそのまま、ちっとも収まりそうにない。それだけで溜め息ものなのに、桃への感情がより溜め息をつかせるのだ。 帰ると言った桃を引き止めたことに自己嫌悪。いや、そんなことより、桃に対しての感情に自己嫌悪だ。 リビングから聞こえてくるドライヤー音、それに混じって歌が聞こえてくる。 もうご機嫌になったのかと腹が立って、けれどそれを聞いていたいようなそんな己の感情により腹が立った。 「・・・・・・恋なんかじゃねぇ・・・」 ついに言ってしまった『ピーホニャララ』に、冬獅郎は己の頬に右ストレートを食らわせたくなりながらも、リビングから聞こえてくる歌声に耳を傾けていた。 (2008年1月9日更新 / 臣) 5 / 7 戻る |