Rouge7:おこらせるとおもわぬはんげきをうけます



   お星さまになったじいや、感謝しています。
   今までじいやに守られていたんだと、桃はやっと気づきました。
   世の中は難しいです、わからないことだらけです。
   大好きなじいや、会いたいです。とってもとっても会いたいです。


 熱めの湯を頭からかぶりながら、冬獅郎は黄昏ていた。とうとう、とうとうやってしまった・・・・・・お星さまになった母上様、見てなかったよな?今際の言葉は、「お母さんはいつでも冬獅郎を見ているから」だったけれど、それでも今のは見てなかったよな!?見てない見てない、絶対見てない。だって視線感じなかったし!つーか、見てなかったと言ってくれ。頼むから言ってくれ。

 「あー・・・・・・。」

 いつまでもシャワーに打たれている訳にもいかないので、冬獅郎は蛇口をひねって湯を止めた。もうもうと湯気が立ちこもる浴室で、だるそうに顔をあげる。

 「・・・・・・自分で抜いたのなんて、中坊の頃以来だ・・・・・・・・・。」

 まあ、方法は置いとくとしてすっきりはしました。常勝将軍のプライドと引き換えに、これでトチ狂ってどこぞの誰かを押し倒すような不幸な事故はとりあえず避けられるでしょう。しかし・・・・・・・・・。

 「80!80!!80!!!」

 またもや繰り返す、魔法の言葉。
 アレは、80!ロリだけど、80!!足がいくらグリグリベロベロンでも、80ったら80!!!
 違う違う違う、絶対に違いますから。この日番谷冬獅郎、はっきり言って女に不自由はしてません。常勝将軍なんです、最近は疫病神にとり付かれてるからちょーっと不調ですけど。それでもよりによってあんなロリ吸血鬼に『変』にソックリな字の例の感情なんて抱くほど不自由はしてませんから、ええ。
 ああ、そうだ。ないないないない、有り得ない。例え、最初は美人な社長秘書を頭に描いてシコシコし始めたのに、いつの間にか誰かにすり替わっていたなんて絶対に気のせいですから。フィニッシュは、マニアが泣いてよろこびそうなロリな喘ぎ顔だったなんて、絶対絶対ぜ〜ったい気のせいです。

 「俺、何やってんだろ・・・・・・。」

 ホントにな。
 シャワーでのぼせてふらつきながら、冬獅郎はよろよろと浴室を出た。いつものように濡れた体にガウンを羽織ろうとして、それはまずいと気づいてガシガシとバスタオルで体を拭いてから下着をつけ、パジャマを上下ともしっかりと装着した。
 これでいい、とにかくこれならガウンと違って一瞬で脱げることはない。もし万が一ナニがアレでどーのこーのしたとしても、パジャマズボンならすぐにナニがぽろっと出ない訳だからその間に我に返れるかも・・・・・・そんなこと、ある訳ないですけどねっ!

 「・・・・・・お、落ち着け、俺。」

 ホントにね。
 ぐったりと疲れながら緩慢な動きでタオルで髪を拭いている時、冬獅郎は鏡に映ったパジャマ姿の自分を見てふと思いついた。そうだ、パジャマだ!諸悪の根源(桃とも言う)にもパジャマを装着させたらいいんだ!!
 パジャマなら、袖と裾をぐりぐりにしたら冬獅郎のでも着れるだろう。ピンクレースの逆三角はドライヤーで乾かして元の鞘に収まったとしても、あのシャツ1枚の姿は裸エプロンに準ずるレベルの凶悪さだ。だったら、冬獅郎のパジャマを貸してやればいいんだ。パンティーは貸してやれないが、パジャマならいける。確か、新しいのがあったハズだし!
 そう思いついて戸棚からまだ未開封の新品パジャマを探し出し、バリバリとビニールを開けて、歯で値札の糸を噛み切りながら冬獅郎は桃がいるはずのリビングに向かい、そして入り口から一歩入ったところで固まった。

 「あ、日番谷くん!」
 「・・・・・・何だよ、その格好は!?」
 「え?」

 さっきまでは確かに素肌に冬獅郎のシャツ1枚という萌えな格好をしていたのに、冬獅郎がシャワーから戻って来てみれば桃はすっかり元のゴスロリ少女に戻っていた。相も変わらず、元気にごてごて。しかも、しっかりとお約束のヘッドドレスも着けています。確かに冬獅郎は、逆三角は履けと言った。ドライヤーで乾かしてでも履けと言ったが、だけど服まで着ろとは言ってない。アレは、アレでよかったのに・・・・・・だって、足が。足がこう、何と言うかグリグリで・・・・・・服を着るならせめて、買ってやった白黒ツイードワンピにして欲しかった。あれならミニだから足が鑑賞できる。すっきりしたから、安心して思う存分鑑賞してやろうと思っ・・・・・・いやいやいやいや、そうじゃないだろっ!パジャマだ、そうだパジャマだろうが。パジャマを着せるんだ、ゴスロリ衣装でも白黒ワンピでもなく、この新品の水色に紺の縦ストライプが入ったパジャマを!!

 「何でそんな格好をしてるのかって訊いてんだ!」
 「え・・・・・・だって、二晩もお邪魔する訳にはいきませんので、電車があるうちに帰ろうかと。」
 「何で帰るんだよ!?」
 「えっとえっと、何でと言われましても・・・・・・。」

 ずんずんと大股でソファの端の方にちょこんと座っていた桃に近づくと、冬獅郎は手に持っていた物をぐっと桃に押しつけた。

 「これ着ろ。」
 「これですか?・・・・・・あの、パジャマに見えますけど。」
 「パジャマだからな。」
 「でも私、帰ろうと思って・・・・・・。」
 「いいから着ろって!」

 どうでもいい気がしますが一応解説しておきますと、この男、何が何やらわからなくなっております。コトに及ばないために着せるパジャマですが、パジャマを着せるために脱がしてどうするな状況です。と言うか、帰るって言ってんだから帰らせれば全て解決だという単純明快な事実は、無意識に抹消してます。器用な男だな。

 「やっ、どこを触ってるんですか!?」
 「抵抗すんな!」
 「だってだってだって、どうして脱がすんで・・・・・あああっ、ボタン外さないでぇ!!」
 「だから、着替えろつってんだろうが。」
 「どうして着替えるのよ、あたしは帰るって言って・・・やぁん!」

 ・・・・・・これって、普通に手篭めにしてるんじゃ?
 えー、冬獅郎に(多分)その気はなく、桃に至ってはその知識さえないのですが、今現在、冬獅郎は桃をソファの上に押し倒して服を脱がしている最中でございます。ジタバタと暴れるので両手首をまとめて掴んで、桃の頭上で万歳をさせる格好で固定してたりして。そうして拘束しておいてから、ゴスロリ服のボタンを外してたりなんかしてますよ、はい。

 「や、やめて・・・・・・。」
 「いいから、じっとしてろ。」
 「だって日番谷くん、こわっ、こわいぃ〜。」
 「恐くねえって、痛くしねえから。」

 ・・・・・・・・・ナンノハナシデスカ?
 ちなみにこの時点で冬獅郎の頭の中は真っ白です。ほんの10分ほど前にすっきりした筈のナニがアレでソレでして、やっぱ若いだけあって1回抜いたくらいじゃ駄目ね〜なんてことはどうでもよく、すっかりパジャマに着替えさせるという当初の目的も霧の彼方に旅立ってしまった模様。
 つまりそれはどういうことかと言うと、そう言うことでして。

 「雛森・・・・・・。」
 「な、何をするつもり・・・・・・。」

 冬獅郎の顔が近づいて来た時、桃は思い出していた。昨日もこんなことをされなかったろうか?確か、口を塞がれてすごく苦しくて・・・・・・。

 「いやぁぁぁぁぁあ!!」

 ふっと、桃の瞳の色が変わった。月の光を吸い込んだような金色の瞳が、まっすぐに冬獅郎を射抜いた。

 「へ?」

 ゾクリと悪寒が背中を走った瞬間、ピキッと冬獅郎の動きがいきなり止まった。目に見えない呪縛という名の力が冬獅郎の四肢を絡め取り、全身の自由を奪う。

 「ほわぁ!?またも成功しちゃいました!!」

 ヤッターと場違いな歓声を上げてから、桃は自分に覆いかぶさっていた冬獅郎を両手でよいしょよいしょと押して、ゴロンとソファの下に転がしてしまった。自業自得と言えばそうですが、結構ひどい仕打ちです。フローリングにゴンと頭を打ち付けたのに痛みを感じないのは、しっかりと硬直しているからだろうかなんて冬獅郎は思ったとか思わなかったとか。

 「ふう、重たかった。」
 「・・・・・・おいこら。」

 桃を押し倒していたままのかなり情けない格好で固まった冬獅郎が、床の上に転がってピキピキとこめかみに青筋を立てていたが、桃は冬獅郎には構わずにゆったりとソファに座り直すと乱れた服を直し始めた。

 「こら、雛森!」
 「何ですか?」
 「何ですかじゃねえだろ!解けよ、金縛りっ!!」
 「だって日番谷くん、またヘンなことします。」
 「ヘンなことじゃねえだろ!つーか、俺は一体ナニをしようと・・・・・・。」
 「知りません、日番谷くんのバカ。」
 「馬鹿じゃねえだろ!」
 「バカバカバカバカ。」
 「俺は、馬鹿じゃねえっての。金縛り解けよ、馬鹿雛森。」
 「イ・ヤ。」
 「雛森!」

 そうこうしている間に桃はずれたヘッドドレスまでしっかりとつけて、帰り支度を整えてしまった。すっくと立ち上がった桃を見て、さすがに冬獅郎は青ざめた。このまま帰られたら、自分は一体どうなるのか?この金縛りがすぐに解けないことは経験済みだ、桃に解いてもらわなければいつまでこのまま・・・・・・。

 「それでは日番谷くん、お世話になりました。あたしは帰ります。」
 「待て、世話になったと思うなら金縛り解いて行け!」
 「それはそれ、これはこれです。」
 「お〜い。」
 「だって、金縛りを解いたらまたヘンなことするでしょ?」
 「・・・・・・しねえって。」
 「嘘です。」
 「嘘じゃねえよ、もう萎えたから人畜無害だ。」
 「萎え?」
 「・・・・・・・・・。」

 ハア〜ッと、冬獅郎は大きな大きな溜息をついた。自分で自分が信じられない。さっきのは何だったのか、何をしようとしたのか。もしも桃が吸血鬼の特殊能力を使って冬獅郎を止めていなければ、今頃は・・・・・・。
 サーッと、さっきとは違う理由で冬獅郎は更に青ざめた。助かった、のか?助かったのだろう、多分。少なくとも、80歳とはまだ関係していない。

 「悪かった。」
 「はい?」
 「謝ってんだろうが、悪かった。もう絶対にしないから。」
 「・・・・・・・・・。」

 そうだ、絶対にしないと冬獅郎は心に固く誓った。さっきも誓っていたはずなのだけれど、簡単に吹っ飛んだところをみると固さが足りてなかったのだろう。
 80、80、80と、魔法の言葉を小さく呟く。
 こいつは、80。ロリでも、80。いくら足がきれいで、ちょっと涙目で唇を尖らせてるのがメチャメチャ可愛くても80歳。圏外です、電波は届きません。絶対に無理です。

 「お前、腹へってんじゃねえの?血、やるよ。」
 「え?」
 「さっき、童貞野郎をゲットしそこなったしな。」

 どうしてあの時、邪魔をしてしまったのか。
 どうして今、こんな冷たい床に転がる羽目になっているのか。
 わからない、冬獅郎は自分で自分がわからない。わからないけど、わらないからもういい。そう、もういいんです。『変』だろうが『恋』だろうがどっちでもいいですからとにかく今は・・・・・・

お願いですから金縛りを解いてください。

 床の上に足を伸ばして座って、ふーと息を吐きながら冬獅郎は首をぐりんと回してみた。グキグキいうけど、すんなりと回る。自由って素晴らしい・・・・・手を開いたり閉じたりしながらしみじみ思った、動けるって本当にありがたいことだ。

 「大丈夫ですか?」
 「おう。」
 「それで、さっきの・・・・・・。」
 「ああ、血か?やるよ、男に二言はねえ。」

 冬獅郎がそう言うと、桃はぱっと顔を輝かせて笑った。そしてストンと冬獅郎の横に座ると、いただきますと手を合わせる。

 「痛くすんなよ。」
 「お任せです。」
 「そう言や研究して来たつってたけど、血の吸い方の本とかあんのか?」
 「はい、我が一族に代々伝わる秘伝書、『彼を気持ちよくさせるマル秘テクニック全集〜これで彼は君の虜だ〜』、です。」
 「はあ!?」
 「私はまだ初級編までしかマスター出来てないのですけど、これからも頑張ってお勉強するつもりです。でも、中級くらいまでなら練習すれば何とかなりそうなんですけど、上級編まで行くと難しくて、読んでも意味がわからないんですよ。これさえマスターすれば彼を10秒でイカせられますって書いてあったんですけど、イカすってどこに行くんでしょうかね。」
 「それって・・・・・・・・・。」
 「はい?」

 冬獅郎のこめかみにツーと汗が伝った・・・・・・ちょっと待ってちょっと待って、ちょっと待ってください!そう言えば、どこか・・・確か、ドラキュラ映画か何かでそんなことを言ってなかっただろうか?吸血行為は、性行為と等しいとか何とか・・・・・・。

 「日番谷くん?」

 え・・・ちょ、ちょっと待てよ。昨日、血を吸われた時には確かに気持ち良かったような・・・・・・と言うか、アレが突然元気になって、それで・・・・・・・・・え?

 「・・・・・・初級だから、あそこまでだったのか?」
 「は?」

 つまり、初級のテクだから気持ちよくなる程度だったが、これが上級になれば10秒で・・・・・・?
 くらりと、突然天井が回った。まだ血は吸われてないのに貧血か、冬獅郎の顔色が更に更に青ざめる。青に青と青が重なって、ちょっと洒落にならない顔色になった。顔面蒼白、ちょっと白目もむいてます。

 「日番谷くん?日番谷くん、大丈夫ですか!?」

 吸血行為は、性行為と同じ。だとすれば、冬獅郎はすでに桃と・・・・・・?

 「つーか、俺がお前に犯されたってことじゃねえかよ。」

 くらくらする、ふらふらする。天井が回る、世界が回る。ついでに、常勝将軍のプライドがずたずたに避けて、ぼろぼろと崩れ落ちる。

 「日番谷くん、しっかりしてください!日番谷くん、日番谷くん!!」

 初めての時は物凄く痛くて、慣れてくると気持ちよくなって来るなんてまるでまんまアレの経過だろう。俺は処女かと自分で自分にツッコミを入れてみたが、ショックが大きすぎて苦笑いも出なかった。ただ、世界は白かった。ピュアホワイトに煙っていた。

 (お星さまになった母上様、ごめんなさい。もう二度と、落ちてるものは拾いません。)

 日番谷くん、日番谷くんと冬獅郎の肩を掴んで必死に揺さぶっている桃の焦った顔を間近に見ながら、やっぱこいつって可愛いわと冬獅郎はぼんやりと思った。





(2008年1月29日更新 / まりり)

6 / 8
戻る